※冒頭からネタバレしていますので物語を読んでから観てから、ご覧ください
この物語の裏のメッセージは
「突出した才能があってもその道に進む義務はない」
だと思います
周りはその才能を応援したり、援助したり、導いたりすることはあっても、強要することは許されない・・・
という強いメッセージを感じました
進むかどうかは本人の自由!
やりたければやればいいし、嫌ならやめてもいい
そんな当たり前のことを見失ってしまった「挫折経験者」の歪んだ執着が起点の物語なんです
ラストで罪を告白し償いをすることに決めた新倉留美は
1. バンドでメジャーデビューしたものの泣かず飛ばすで諦めた
2. その後結婚し、望んだが子宝に恵まれなかった
という二つの挫折を経験しています
その喪失感を
「若い才能を発掘しそれを伸ばし大きく羽ばたかせる仕事をする夫」
のサポートをすることで穴埋めしています
そこには、自分の実力のなさで音楽活動が上手くいかずそのせいで自身が輝けなかっただけでなく、同じバンドメンバーだった夫の才能を埋もらせてしまっている
という負い目があります
また夫は夫で、妻の才能を開花させられなかったのは自分のせいだと責任を感じています
そこで新倉は「若い才能の発掘」することを仕事に選び、そのサポートを妻にしてもらうことで罪滅ぼしをしているんです
互いが互いに負い目を感じている状態ですね
そんな2人が「突出した類稀なる才能」に出会ったことから悲劇が始まります
「この素晴らしい才能を世に知らしめる」
そんな大義名分を掲げて本人や両親を説得し自分たちの手で育て始めますが、何のことはない、その行為は夢破れた親が自分たちの子供に夢を背負わせるのと全く同じ構造です
でも彼らはその歪みに気付きながらも目を背け、あくまでも才能のサポートという善意の仮面を被っています
だから相当の時間や労力を費やしているにも関わらず、そのレッスン料を取らないんですね
これが大手の音楽事務所ならまだわかります
複数の候補生を抱えて無償に近い形で育てても、そのうちの誰かが花開けば元が取れます
たとえその中の「最も才能がある誰か」が逃げ出したとしても、残りのメンバーを育てていくことで穴埋めができますよね
そう、投資の基本は分散なんです
一点集中は非常に危険で、それに固執してしまい冷静な判断力を奪われてしまいがち。
でも新倉夫妻は過去に得られなかった栄光に固執するあまり、この一点集中をしてしまいます
その結果、本人のプライベートにまで口出しをするようになりウザい姑のようになっていくんです
その息苦しさからか佐織は恋愛に走るようになり、それを咎められ口論になり事件が起きてしまいます
ただ、その口論の時点でお腹に子を宿しているということは、そのずっと前から音楽家としての人生に、新倉夫妻にサポートしてもらい続けることに疑問を感じていたんじゃないのかな
でも佐織が「ストーカー」と評するほどの執着を見せる彼らには、どんな理由並べても通じない、逃げられないと感じたのでしょう
そこで既成事実を作ったんだと思います
でもそんなこと絶対に許せない!
突出した才能があり成功が目に見えているのに平凡な人生を選ぶなど馬鹿げている!!
これまでサポートした労力を、期待した自分たちの夢をどうしてくれるんだ!!!
などという身勝手な執着に囚われている留美の目には、佐織の選択はとうてい理解できない振る舞いに映ったんでしょう
こういった思考そのものが一点集中の怖さなんです
こうして悲劇が起こってしまい、そこにつけ込む悪意に襲われることで今回の事件が起きてしまうんです
過去の挫折に固執しない
誰かの才能に執着しない
誰かに自分の夢を背負わせない
この物語はタイトルの通り「沈黙」がテーマですが、裏テーマが以上だと思います
ではでは
ちなみに・・・
もし佐織の告白時に留美がもっと冷静で、諭すように説得し考え直すように導いていたとしても、佐織に起こった悲劇は回避できなかったと思います
なぜならタイミングが良すぎるからです
佐織が突き飛ばされて気を失っているタイミングで、たまたま蓮沼が通りかかったのでしょうか?
そんなはずありません
おそらく蓮沼は佐織を襲うつもりでつけ狙っており、この時もどこかの茂みから見ていたのでしょう
だから、殺してしまったと思い込みその場から逃げた留美を見て、これを利用して彼女を搾取する計画を瞬時に思いつき犯行に及んだのだと思われます
とんでもない悪党ですね
もし留美が佐織を突き飛ばすことがなかったとしてもおそらく喧嘩別れになったでしょうから、佐織を残して留美が立ち去れば隠れていた蓮沼が佐織を襲っていた可能性が高いと思います
逆にその場に留美が残され佐織が立ち去ったとしても、蓮沼は別の機会を淡々と狙い実行していたんじゃないかな
つまり、留美の対応がどうであれ佐織自身は被害を受けていた気がします
そしてその際はやはり命を奪われていたんじゃないでしょうか
なぜなら蓮沼の思考では「命を奪う」ことに対するハードルが極めて低いからです
おそらく元々低かった上に、過去に命を奪った経験もあり、さらにそれでも起訴されなかったという成功体験があります
そんな土壌があれば、少し抵抗されたぐらいでも簡単に命を奪いそうです
そう考えるとやりきれない気持ちになりますね
(フィクションですが)佐織さんのご冥福をお祈りします